pipipi pipipi

pipipi pipipi

pipipi pipipi・・・





「・・・ハイ?」

イルカは寝起き特有の掠れた声とふやけた思考のまま鳴り止む気配のない携帯に出る。

「イルカ?開けて。」

ともすれば不機嫌とも取られかねないその声に怯むことなく、電話の相手は落ち着き払った声で言った。
同時に朝の静寂を間抜けなチャイム音が浮遊する。



「・・・。」


のろのろと起き上がり、何回かさして物もない部屋の角やらにぶつかりながら、イルカは玄関へ向かう。覗き穴から相手を確認し、仁王立ちの相手にそっと溜息をつきつつ、鍵を開けた。

「オハヨウゴザイマス。」


「・・・おはようございます。」

「中に入ってもいい?いいよね?」

明らかに相手はご立腹のようである。後ろ頭を掻きながら、イルカはとりあえずカカシを中へ促す。


「・・・えーと、カカシ?迎えに

「逃げただろ。」

あくまでも自然に、なんとか穏便にすませようとするイルカの言葉を遮るようにカカシは声を荒げた。

「逃げただろ・・・!」

「えー・・・ あーー?」

「お前、昨日の朝、先行ってて、ってメールしてくるから何事かと思ったら!昨日、俺がどんな目にあったか・・・・!」


口をぱくぱくとさせながら、憤怒の表情で身体をがくがくと震わせているというのもなかなか面白い光景だなぁ、壁を突き抜けそうなほどの音量を少し下げてくれないかなぁ、などと考えているのがわかったのか、さらに目を吊り上げてイルカを掴んでがくがくと揺さぶる。



「えーーと、どうでした?」

「ひどい!やっぱ知ってたんだ!俺は朝からわけのわかんないものを押し付けられるは、机の中から甘い匂いがするは、果てはお返しはいらないから今釦くれとか言われて剥かれそうになってたのに!お前!」


「うんうん、わかったカカシ。わかったから、な?お前の声はもう少しトーンが低いほうが俺は好きだなあ。」


キーーーーーン と鳴る異次元の槍を頭痛と闘いながらもなんとか回避しようとイルカは寝起きモードの頭を叱咤激励する。

効果があったのかないのか、がくがくと揺さぶられていたイルカはとりあえず解放された。カカシは俯いてブツブツと何かを床にむかって呟いている。それはそれで恐い。



「カカシ?」

イルカが恐る恐る声をかける。



「バレンタインだって知ってたなら俺だってイルカにあげてたのに!」


突然キッと顔を上げてそんなことを叫んだかと思えば うわーーーん、と泣き出したカカシにイルカは思わずぶっ、と噴出した。


「ひどい!笑うなんて!俺はイルカが好きなのに!ずっと好きだっていってきてるのに!爽やか笑顔で優しくてかっこよくて頭良くてかわいくて色っぽくて男前なのは俺が一番知ってるっつーの!なんだあの女共は!自分が女だから優しくされるなんて勘違いしてんじゃねーよ!イルカは確かに女には特に優しいかもしんないけどねぇ、誰にでも優しいの!イルカ君に絶対渡してねぇ?知るかよバーーカ!」


途中から怒りの対象が変わったことにも気づいていないのか、一人漫談でも見ている気分になったイルカは、とりあえずカカシを放置した。





****




「落ち着いた?」



さんざん泣き喚いて自分を取り戻したのか、腫らしてさらに眠たそうになった瞼を冷やしてやりながら、それでも件のイルカ宛のチョコを律儀に持ってきたカカシをよしよしと撫でてやる。なんでも、その場で捨ててやりたかったが、そんなことをしたらイルカまで悪くいわれるかもしれないからやめた、だ。イイコと褒めれば、イルカのフェミニストぶりが移ったのだと拗ねる。

一番の怒り所が、イルカにチョコを渡せなかったこと、なのだから、もう可愛いとしかいいようがない。というか、可愛すぎる。なんだろうこの生き物は。


「ちょっと、いつまで撫でてるの。」

明らかに照れ隠しとわかるカカシの言葉に、イルカは優しく微笑んで「ちょっと待ってな。」とカカシから離れる。


「・・・っ」

「カカシ?」

「ん、なんでもない」

「そ?」




紅茶を入れてやりながら、イルカは学校に行ってもそれはそれで面白かったかもなぁ、と笑う。
冷蔵庫の中にはカカシ用につくったガトーショコラ。
喜んでくれるといいんだけどねぇ、そんなことを思いながら。